アメ車マニア


イット (原題:IT)

1990年アメリカTV映画


メイン州デリーでは子供達を狙った謎の殺人事件、失踪事件が相次いでいた。
この物語の中心となる7人の少年少女達はこの街でそれぞれ悩みや問題を抱えながら暮らしている。
そんな彼らの前に、ピエロの姿をした謎の怪人ペニーワイズが現れる。
ペニーワイズの姿も、彼が起こす怪奇現象もは大人には見えない。
子供達はペニーワイズの悪事を止めるため、導かれるまま地下の下水へと降りてゆく。
そして純銀のイヤリングを銃弾代わりに、スリングショット(パチンコ)でペニーワイズに向けて発射して倒したのだった。

その30年後、再び街にペニーワイズが現れた。
街を出てそれぞれの人生を歩んでいた元子供達は、再びペニーワイズと対決すべく、故郷の町に集結する。。。

これがストーリーの概略です。
子供時代を描いた前半部分はダーク風味の「スタンド・バイ・ミー」といった印象。
子供たちを恐怖に陥れるピエロが上手く描かれています。
7人の少年少女が抱えた問題&彼らの前にペニーワイズが現れて脅かす、を7人分繰り返すのですが、ここは冗長になる事なく物語に引き込んでくれます。

大人になった子供達が再度ペニーワイズと対決する後半はいささか冗長。
これまたご丁寧に彼らの今の生活&そこに現れて悪さをするペニーワイズを人数分見せられます。
これはちょっとクドかった。
ここはサラッと流して対決シーンへと繋がる物語に厚みを持たせて欲しかったですね。

この映画を見る前にいくつか理解しなければならない事があります。

1.TVの連続シリーズ物として作られた作品である
2.スティーブン・キングは読み手を裏切る展開が得意

キングファンと、以上を理解している人なら「It」を楽しめる(許せる)と思います。
これを理解せずに見ると「はぁ!?」となるかもしれません。

まず、連続ドラマを1本にまとめていますのでトータル3時間を越えます。
時間は長いですが、スティーブン・キングの小説は伏線が多いので余分な部分が省かれて見やすくなっています。
文庫本4冊からなる原作本がベースですから、逆に、下手に2時間や90分枠で製作されなくて良かったです。
また、当初から1本の映画として作られた作品ではなく数回に分けた話を繋げているので、劇場用映画とは基本的なテンポが異なる事を理解しないといけません。
前半の90分は見事に纏め上げていましたが、あれは奇跡的なことだと思います。
よく出来た前半と比べると後半はダレているように感じるものの、テレビシリーズを1本に繋げればこうなるのが普通なのかもしれませんね。

そして賛否両論どころではなく、圧倒的に否の感想が多いエンディングについて。
原作よりも先にこの映画を見たのですが、個人的にはそんなに悪くないと思いました。
スティーブン・キングらしい裏切りを感じさせる辺りに思わずニヤニヤしちゃいました。
後に映画化された「ドリームキャッチャー」も当初はオカルトや超自然的な現象を描いているかと思いきや、実はエイリアンが真犯人と判明して唖然と します。
「ミスト」だってそう。日常感を漂わせる物語の中に、まさかあんな怪物たちが出てくるとは思いもしませんでした。
この「IT」の最後もあんな感じと似てますね。
悪人ピエロ・ペニーワイズの正体がまさかあんなモンスターだったなんて、スティーブン・キングらしい裏切りだと思いました。
ショボイとかチャチとか言われているITの正体ですが、これはテレビ映画ならではの低予算に起因するものでしょう。
デザイン的にはクローネンバーグの「ザ・フライ」のような怪物なんですが、今となっては懐かしいストップモーションアニメで表現されています。
コマ撮りされたミニチュアなのでCGのようなスムーズな動きではありません。
ただ、1950年代のB級SFを愛するスティーブン・キングが好みそうなチープな特撮に思わず嬉しくなったりもします。

このように「IT」がテレビ用に作られた作品である事を許せる方には是非見てもらいたいです。
さらにスティーブン・キングの作家性を知っているならば、許すも何も、逆にキングらしさを感じられるので諸手を挙げてお勧めします。

 


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