アメ車マニア


「テキサス・チェーンソー」シリーズ


テキサス・チェーンソー (原題:THE TEXAS CHAINSAW MASSACRE)

アメリカ2003年度作品

 

先日、ひょんな事からこの「テキサス・チェーンソー」のDVDを知人から頂きました。
それを機にレビューをリライトしてみます。

公開初日に劇場で見て、「悪魔のいけにえ」に対してあまりの毒の無さにガッカリしたのを覚えています。
でもヒットメーカー、マイケル・ベイがプロデュースしただけあり、エンターテイメント性の高いホラー映画に生まれ変わっています。

導入部分を紹介すると…

レイナード・スキナードのライブ会場へとバンを走らせる男女5人の若者たち。
道中、テキサスの荒野を一人ふらふらと歩いていた女性を拾う。
何かに怯えるような態度を見せた女性はスカートの中から銃を取り出し、自分の脳天を打ち抜いてしまう。
若者たちは遺体を乗せたままガソリンスタンドへ立ち寄り、警察へ通報する。
保安官と落ち合うため、指示された農場の廃屋へ向かう一行。
しかしそこに保安官が現れなかったため、連絡を取ろうと隣家へ電話を借りに行く。
ところがそこは、人間の顔の皮で作ったマスクを被り、チェーンソーを振り回す殺人鬼「レザーフェイス」の住む家だった。。。

…ってな具合です。

ご覧のように、「悪魔のいけにえ」の導入部分で強烈な印象を残すヒッチハイカーは出てきません。
代わりに突然銃口を咥えて脳天に風穴を開ける女性が登場。
その風穴をカメラが通り抜けるというとんでもない悪ふざけを披露してくれます。
衝撃的ではありますが、ヒッチハイカーのような生理的な嫌悪感は感じませんでした。

レザーフェイスは、旧作で見せたコミカルさや子供のような仕草は影を潜めました。
絶えず怒りを湛えたような荒々しいキャラクターです。
彼がマスクを被るようになった理由が「皮膚病で顔が崩れてしまったため、それを隠すためにマスクを被っている」との事。
劇中、鼻が無い顔が一瞬だけ映ります。

出演者の中で一番張り切っているのが、レザーフェイスの叔父である偽保安官役、R・リー・アーメイ。
スタンリー・キューブリックの「フルメタルジャケット」で、ほほえみデブを凶行に追い込んだあの俳優です。
高圧的な態度で怒鳴り散らし、偽の権力を振りかざして若者を自宅に連れ込む役目を担っています。
元軍人という事もあって若者を威圧するという役回りはぴったりです。
強烈な個性を放つリー・アーメイ保安官役と比べると、レザーフェイスのキャラが薄く感じるほどです。

ちなみに、ヒロインは当時まだ22歳のジェシカ・ビール。
色っぽ過ぎて気が散るっつーの(汗)

特殊メイクは、現状、文句なしに業界No.1の技術とセンスを誇るKNBエフェクツ。
ここでは控えめながらも随所にリアルな特殊効果を挟み込むことで、恐怖感や痛々しさを増幅させています。

監督はCM界の鬼才と言われたマーカス・ニスペル。
彼のオフィシャルサイトを見れば分かりますが、数々の映像作品すべてがスタイリッシュで斬新。
そんな才能はこの「テキサス・チェーンソー」や、再度マイケル・ベイと手を組むリメイク版「13日の金曜日」でも見る事ができます。
脳天の風穴をカメラが通り抜ける…なんていうのは、彼流の遊び心なのかもしれませんね。

「テキサス・チェーンソー」は、言うなれば「悪魔のいけにえ」現代版万人受けバージョン。
正直、「悪魔のいけにえ」ファンがそれを期待して見ると思いっきり裏切られます。
ホラー映画ファンの中で、「悪魔のいけにえ」が好きであるほど「テキサス・チェーンソー」の評価が低くなる…傾向があると思いますが、スタイリッシュなエンターテイメントホラーとして、前年の「バイオハザード」と合わせ、後のホラー映画に多大なる影響を与えたのは事実。
そんな見方をすると、当初「劣化版悪魔のいけにえ」と酷評した自分でも、また違った形で評価できました。

もっと酷評した続編の「テキサス・チェーンソー・ビギニング」も見直してみようかなあ。


 

テキサス・チェーンソー ビギニング (原題:THE TEXAS CHAINSAW MASSACRE:THE BIGINNING)

アメリカ2006年度作品

 

先日、10年ぶりに見直した「テキサス・チェーンソー」の評価が、以前自分で下した酷評から一転、高評価になった事に我ながら驚きました(笑)
オリジナル版「悪魔のいけにえ」を愛するあまりの酷評だった訳ですが、人間、柔軟さを忘れちゃいかんな~と改めて思った次第。

そして、リメイク版1作目以上に酷評したのがこの「テキサス・チェーンソー・ビギニング」。
こちらも今見直したらもしかしたら面白いかも…と期待して見直してみました。

ストーリーはリメイク版1作目「テキサス・チェーンソー」の前日譚。
後にレザーフェイスとなるトーマスの誕生秘話から、彼が初めてチェーンソーを持ち、人間の顔の皮を纏うところや、ヒューイット一家がカニバリズムに目覚めるエピソードも描いています。

テキサスの食肉加工工場に勤める女性従業員が仕事中に赤ん坊を生み落し、そのまま息絶えてしまう。
困った女性の上司は、赤ん坊を生きたままゴミ箱に捨てるが、ゴミを漁りに来た女に拾われその自宅へと連れ帰られる。
赤ん坊はそのヒューイット家でトーマスと名付けて育てられるが、先天性の障害で顔が崩れ、知的障害も持っていた。
成長したトーマスは自分が生まれた食肉工場へ勤め始めたが、工場の閉鎖が決まり、仕事を失ってしまう。
工場勤め最後の日、自分をゴミ箱に捨てた張本人と知ってか知らずでか、罵る工場の責任者をハンマーで殴り殺した。
そして工場にあったチェーンソーを奪って外へ出てゆく。

工場で遺体を発見したホイト保安官は、トーマスの後を追いかける。
彼を発見し逮捕しようとした時、ヒューイット家の長男であるチャーリーがショットガンで保安官の頭を吹き飛ばした。

チャーリーはパトカーと保安官の遺体を回収、自ら偽のホイト保安官となって獲物探しに出かけた。
路上で若者の車が横転事故を起こしているのを見つけると、車内にいた3人をパトカーに押し込んで自宅へと向かう。
しかし、横転事故の車両に乗っていたのは3人だけではなかった。
事故の際に車外へ放り出され、草むらの上で目覚めたクリッシーは、仲間が強引にパトカーに乗せられるのを隠れて見ていた。
3人を救うため、単身ヒューイット家へ潜入するのだが。。。

製作は前作同様マイケル・ベイ、監督はマーカス・ニスペルからジョナサン・リーベスマンに変わりました。
ジョナサン・リーベスマンは後に「世界侵略: ロサンゼルス決戦」などを撮っています。

「テキサス・チェーンソー・ビギニング」は、前作と比べてお化け屋敷的なびっくり演出が目立ちます。
びっくり系ホラーが好きな人は楽しめると思いますが、オリジナル版「悪魔のいけにえ」とは完全に怖さの質が異なります。
「あ~びっくりした~。」で終わっちゃうので旧作のような後を引く怖さではありません。
殺人鬼一家の過去を掘り下げていくのは面白いものの、一家目線で物語が進んでいくため結果的に緊張感を削ぐ事になってしまいました。
またショートフィルムを繋ぎ合わせたような断片的な構成で、作品全体に一体感がありません。
こういうまとまりの無い映画って記憶に残りづらいんですよねえ。

画面は常に黄色いフィルターがかかったような色調で、ここはトビー・フーパーの「悪魔のいけにえ2」へのオマージュでしょうか。
また、カメラをグラグラ揺らすと共に、ズームで寄ったり引いたりを小刻みに繰り返し、登場人物の不安な気持ちを表現しています。
この撮り方はジョナサン・リーベスマン監督の特徴なんですが、これ、個人的にとっても苦手。
多少カメラを揺らすならまだしも、リーベスマン監督は動きが激しすぎて見づらいんです。
酔いやすい人は画面見ながら気持ち悪くなっちゃうんじゃないでしょうか?
後年に撮った「世界侵略: ロサンゼルス決戦」では、不安を煽る必要の無いシーンでも常にカメラは揺れまくり、引いたり寄ったりを繰り返し、見てて非常に疲れました。

前作ではCM職人のマーカス・ニスペル監督がスタイリッシュな映像で新しい「悪魔のいけにえ」を見せてくれましたが、今作の映像は普通。
落着きなく動くカメラワークが個性なのかもしれませんが、前作ほどのインパクトや特徴にはなっていません。

ゴア描写は前作に対して大幅にパワーアップしてまして、グログロ好きには堪らないと思います。
特殊メイクは前作同様、グレッグ・ニコテロとKNBエフェクツ。
この作品の特殊メイクはリアルすぎてヤバイレベル。
レザーフェイスがナイフで被害者の顔を剥がすシーンなんて本物に見えます。
チェーンソーもフル活用され、大勢の体を貫き、切り裂いています。
あれは凶器として最恐、最悪ですね。あんなんで切り刻まれるなんて絶対嫌だわ。

驚きの凄い特殊効果のつるべ打ちなんですが、これもまた「悪魔のいけにえ」としてはやり過ぎに感じられます。
まず記憶に刻み込まれるような恐怖ありきで、付加価値としてこういうビジュアル面が加われば説得力があるんですけどね、この作品に関してはグロに頼ろうとしちゃった感が強いです。
でも、みんなで集まってワイワイ「痛てー!」「グロい!」なんて大騒ぎできるのは、「悪魔のいけにえ」では出来なかった楽しみ方ですね。

過去の自分の酷評がひっくり返ることに期待して見直してみたんですが、以前見た時から大きく評価が変わることはありませんでした。
前から書いていましたが、「悪魔のいけにえ」のリメイクでなければもっと評価が違ったと思うんです。
普通の殺人鬼ものとして見たら十分なクオリティだと思います。
でも、偉大な「悪魔のいけにえ」という十字架を背負ってしまったため、ファンが厳しく評価してしまうのは仕方ないこと。
オリジナルのファンならば「Texas Chainsaw Massacre」を名乗る以上、キャラや設定を拝借するだけでは納得しません。
本質をしっかり理解した正統派リメイク、あるいはオリジナルを超えるくらい野心的なリメイクでなければ、作って欲しくない。
そういう「面倒なファン」の期待に応えられる作品ではありませんでした。

ただ、「面倒なファン」以外の大勢の方々には間違いなく楽しめます。
何てったって天下のマイケル・ベイプロデュースですからね~。




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