アメ車マニア


シャドー (原題:TENEBRE)

1982年イタリア映画





ダリオ・アルジェント監督が1982年に撮ったジャーロの佳作。
魔女三部作のようなオカルトものではなく、アルジェント初期の作品を連想するミステリーホラー作品です。


ニューヨークで活躍する小説家ニールが、新作のミステリー小説「暗闇」のプロモーションのためローマへやって来る。
取材やテレビ出演をこなしていくその周囲で、新作小説と同様の連続殺人事件が発生する。
犯人がニールの元へ脅迫状を送り付けてきたため、刑事が周辺の捜査を開始した。

そんな中、ニールが宿泊するホテルの管理人の娘が街中を歩いていると凶暴な犬に襲われた。
近所の豪邸へ助けを求めるが家人は留守だったため、地下室へと逃げ込む。
そこには一連の殺人現場を撮影した凄惨な写真が並んでいた。
通報しようと受話器を取るが犯人が帰宅してしまい、家の外まで逃げ出すものの追いつかれ斧で殺害されてしまう。

ニールは娘の遺体が見つかった現場の近くに住む書評家のベルティに疑念を抱く。
アシスタントと共にベルティの豪邸に侵入し、二手に分かれて邸宅内を捜索する。
しかし犯人だと思われていたベルティはアシスタントの目の前で何者かに斧で惨殺され、ニールも頭を殴られ気を失ってしまう。
二人ともベルティ殺害犯の顔は見ていなかった。

身の危険を感じたニールはエージェントであるブルマーに相談し、パリへと旅立っていった。
ブルマーはニールの婚約者ジェーンと不倫関係にあり、ニールが出国した後、極秘でローマを訪れていたジェーンと密会する約束をしていた。
待ち合わせ場所の広場で待っているブルマーだったが、白昼堂々、何者かに刺殺されてしまう。
また、ベルティ殺害現場に居合わせたアシスタントの青年も絞殺されてしまった。

浮気相手のブルマーが殺された事で恐怖に怯えたジェーンは、ニールの秘書であるアンに助けを求める。
アンが訪れるのを部屋で待っていたジェーンだったが、そこに殺人鬼が現れ斧で惨殺された。
さらに、その部屋にやってきた女性も殺されてしまう。

咄嗟に殺してしまった女性の後ろ姿を見て狼狽する殺人鬼は、何とニールだった。
床に倒れた女性は、愛人であるアンの姿だったのだ。

そこに現れた刑事に対し、愛する人を殺してしまった後悔の念を吐露するニール。
しかし、刑事の後に付いて部屋に入ってきたのはアンだった。
床に倒れているのは、刑事の相棒の女性刑事。
殺した刑事を愛人と勘違いし、動揺した結果自らの殺人を認めてしまったニールは、事件の真相を語り始めた。

自身のストーカーだったベルティが連続殺人事件の犯人と知ったニールは、ベルティを殺害。
一連の事件と同一犯の犯行と見せかけ、浮気する婚約者とその相手ブルマーを殺そうとしたのだった。
全てを明かしたニールは、ポケットから取り出したカミソリで、自分の喉元を切り裂いて命を絶った。

アンをパトカーに乗せ、刑事が再び部屋に戻るとニールの死体が消えていた。
床に落ちたカミソリを手に取ると、それは血糊を流す仕掛けのついた偽物だった。
そして、刑事の背後に立ったニールは斧を振り下ろす。。。


婚約者が浮気している時点で犯人は予想がつきましたが、ミステリーとしてもそれなりに楽しめます。
日本の2時間枠のサスペンスドラマのような展開ながら、ジャーロ風味が濃厚で程よくお下品。あ
登場する美女たちは、肌も露わ、胸元ツンツン、パンツ丸見えです。
殺人場面は、カミソリで喉を掻っ捌き、額に斧を叩き込み、腕を切断したりします。
アルジェント作品としては執拗にネチネチ責めるようなシーンが無くて寂しいものの、サスペンス映画としては十分刺激的。
土曜ワイド劇場や火曜サスペンス劇場には無いエロと残酷描写が満載でドキドキしました。

ちなみに、ラストで過去の未解決事件が明らかになりますが、それが必要だったのかはよく分かりません。
まぁ伏線が活かしきれないのはアルジェントの常なのであまり深く考えちゃダメですかね。

あと「シャドー」を語る上で必ず触れないといけないのが、白赤のコントラスト、そして長回しのシーン。

まず映像の中で白と血の赤が印象的に使われているのが目に付きます。
被害者の白い服が鮮血で真っ赤に染められていく。
モノトーンの回想シーンの中で、赤いハイヒールだけが鮮やかな色を放つ。
この白と赤の色使いが鮮烈な印象を植え付けます。
アルジェントと言えば原色の毒々しい照明をイメージしますが、「シャドー」は自然な照明と白い背景によって明るい映像が特徴となっています。

そして殺人鬼に狙われている女性の住む建物を、外壁に沿うようにカメラをズリズリと移動させる長回し撮影が面白い。
部屋の窓から窓、屋根の上、階段の窓と延々と見せていきますが、なかなか殺人鬼の姿が出てこない。
殺人鬼を見せる気は無いのかな?とこちらが諦めかけた所で、窓のブラインドとパチパチと切断する手が映し出されます。
この長いワンカットで撮られた映像がファンの間では語り草です。
今見るとクレーンがグラグラ揺れて動きも妙にカクカクしてるのが惜しい。
もっと滑るようにスライドしてくれれば気持ちよかったんですけどね。

他にもアルジェントらしい遊び心ある映像作りが随所に見られて楽しいです。

音楽はゴブリン名義ではありませんが、ゴブリンのメンバーが担当しているのでいつものあのサウンドが健在。
やはりダリオ・アルジェント作品にゴブリンサウンドは欠かせませんね。

特殊効果を担当しているのはジョバンニ・コリドリ。
一番目に名前が載ることはあまりありませんが、デ・ロッシさんたちと一緒に様々なイタリアンホラー映画に参加している人です。

また助監督として「デモンズ」の監督ランベルト・バーバと、「アクエリアス」の監督ミケーレ・ソアビも参加。
この二人は細かい役で出演もしています。

キャストは主役のニールがアンソニー・フランシオサ。ブルマーが「エルム街の悪夢」「地獄の謝肉祭」のジョン・サクソン。刑事役はジュリアーノ・ジェンマ。アンはアルジェントの奥さんで女優アーシア・アルジェントの母親であるダリア・ニコロディ。
面白いのはジェーンを演じている女優で、なんとベルルスコーニ首相の奥さんです。もともと不倫関係だったのが、愛人から奥さんに昇格しています。「シャドー」でも実生活でも不倫とは。。。

ミステリーとしては傑作と言えるレベルではありませんが、アルジェント風味を存分に楽しめる作品です。
アルジェントの脂が乗っている時期の作品ですから、未見の方は是非お試しあれ。

 


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