アメ車マニア


「肉」(原題:WE ARE WHAT WE ARE)

2013年アメリカ映画


生々しいタイトルからは想像しにくい、ひんやりした空気感が感じられる透明感のある映像が印象的な作品です。


パーカー家は厳格な父フランク、母エマ、長女アイリス、次女ローズ、長男ロリーの5人家族。
嵐の中、買い物に出たエマは突如吐血して倒れ、気を失ったまま増水した川に落ちて溺死してしまう。

エマの遺体にはパーキンソン病の症状が出ており、それが倒れた原因だと判断された。
遺体を検視解剖したのは、過去に娘が行方不明になり、今も見つからず寂しさを抱えて生きる老医師バロー。
母を亡くした子供たちに優しく話しかけた。

エマを失ったパーカー家には秘密のしきたりがあった。
フランクは、エマと行ってきたその儀式を、子供の中で一番年長のアイリスに、母の代わりに行うよう伝える。

1700年代後半、パーカー家の祖先は飢えに苦しみながら暮らしていた。
食料が手に入らず身内に死者が出た時、当時の家長は人間を殺し、その肉を一家に与える事で飢えをしのいだ。

人肉食が一家を救った事が代々伝えられ、現代もパーカー家では、断食明けの日に人肉を食べるという儀式を続けていたのだった。
今回の獲物はフランクが連れてきて、地下室に監禁している女性。
今までは両親が行っていた食材の殺害、料理を任されたアイリスは、ローズの手を借りて実行する。
地下室でハンマーを使って撲殺、手際よく解体し、作ったシチューを一家揃って食べた。

川岸で野草を摘んでいたバロー医師は、人の骨のような物を拾う。
骨にはのこぎりで切断され、ナイフで肉を削ぎ落したような痕跡が確認できた。
自分の娘を含め、失踪者が相次いでいることから事件性を感じたバロー医師は、保安官捕に相談する。
そして保安官補が川をさらってみると、ちょうどパーカー家の家の前で人の歯らしき物が見つかる。
一家の秘密が漏れる事を恐れたフランクは、保安官補を殺害し、森の中に埋めた。

フランクが川を調べてみると、嵐の濁流が自宅前の土を削り、地中に埋められていた大量の人骨が川へ流れ出している事を知る。
一家の秘密が発覚するのが時間の問題だと悟ったフランクは、人肉シチューにヒ素を盛り、一家心中を図ろうとしていた。

エマの死因をパーキンソン病と判断したバロー医師だったが、人肉食の習慣を持つ部族に見られるクール―病の症状が、パーキンソン病とよく似ている事を突き止めた。
パーカー家に人肉食の疑いを持ったバロー医師は一家の所へ乗り込んできた。
しかしフランクに殴られ気を失ってしまう。

その隙に幼い弟を抱えて外へ逃げ出した次女ローズは隣家へ逃げ込む。
追いかけてきたフランクは隣人女性を殺害し、ローズとロリーを抱えて自宅へ戻る。
そして毒入りシチューを食べさせようとする父親に、アイリスとローズが襲い掛かった。
噛み付かれ息絶えたフランクの肉を、二人の娘は貪り食うのだった。。。


インパクトのある邦題から、血肉飛び散るお下劣なスプラッター映画かと思いました。
でも実際には雨上がりの美しい森の中で展開するサスペンスホラーでした。
とはいっても、人肉食というタブーを扱っているだけあり、美しい映像の裏に漂う血生臭さは強烈。

決してグロさを前面に押し出した映画ではありませんが、ちょこちょこ挿し込まれる残酷シーンがヤバい。
磔にされたまま息絶え、体のあちこちの肉を削ぎ落された女性の遺体。。。
解剖台の上で開腹され内臓が取り出された母エマは、内臓よりもめくられた皮膚の下に見える脂肪のような黄色い層が気持ち悪いったらない。。。

ラスト、人肉食を嫌がっていた姉妹が、突如生きてる父親に噛み付くシーンも恐ろしかったです。
嫌々ながらも長年食べさせられてきた人肉の味を思い出してしまったのでしょうか。
幼い弟も、母を亡くした寂しさから隣人女性の指をしゃぶっていたのが、突如ガブッ!と噛み付いたりしてましたから、この姉弟には”人間は食べ物”という意識が植え付けられちゃってるのかも。

アイリス(アンビル・チルダーズ)とローズ(ジュリア・ガーナー)は絶世の美女タイプではないのですが、透明感があってとても魅力的でした。
この汚れの無さそうな二人が人を食っちゃうというギャップがまた堪りませんです。

ちなみにこの作品、別ページで紹介した「ステイク・ランド」のジム・ミックル監督の作品です。
脚本も「ステイク・ランド」と同じくジム・ミックルと俳優ニック・ダミチの共作。
「ステイク・ランド」で主役を演じていたニック・ダミチは保安官役で出演しています。
そして「ステイク・ランド」で劣化ぶりに涙したケリー・マクギリスも隣人の太ったおばはん役(号泣)で登場。

「ステイク・ランド」も結構お気に入りですが、それ以上にこの「肉」は好きな作品です。
ジム・ミックル監督とは感性が合いそうで今後の活躍にも注目しています。

ただちょっと突っ込みどころもあります。
ラスト、フランクに追われて隣家に逃げ込んだローズの行動には違和感がありました。
逃げるのをやめて座りこんじゃうし、泣きわめくだけで状況を説明しないもんだから訳も分からないままケリー・マクギリスは殺されちゃうし。
ちょっと中途半端でしたね。
あと、地下室に閉じ込められてた女性は誰?
字幕には訳されていませんが、アイリスが名前を言ってるから顔見知りっぽい。でも説明は一切無し。
こんな風に「ん?」と軽く引っ掛かる部分もあったものの、個人的にはスルーできるレベルでした。

総評としては十分人にお勧めできる作品です。
「肉」というタイトルも最初は違和感がありましたが、見終わってみると結構深いかも。
ただ、肉がグッチャグッチャ飛び散るような作品ではないのでご注意を。



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