アメ車マニア


MAMA(原題:MAMA) 

2013年スペイン・カナダ合作





アルゼンチンの監督アンディ・ムスキエティが撮った短編がギレルモ・デル・トロの目に留まり、デル・トロのプロデュースにより長編としてハリウッドリメイクされた作品。
元となった短編と同じくムスキエティが監督しています。

事業に行き詰った経営者ジェフリーが、妻と共同経営者を殺し、3歳と1歳の幼い娘を連れて逃亡を図る。
人気のない山間部をメルセデスW220で走行中、ステアリング操作を誤って崖下へ転落。
大きな怪我こそなかったものの車は走行不能となり、三人は深い森の中を彷徨う事になる。
しばらく歩くと目の前に長い間使われていない廃屋が現れる。
室内で暖を取り、不安そうな娘たちを落ち着かせるジェフリー。
しかし追い詰められた彼は、娘を道連れに無理心中するために連れ出したのだった。
幼い娘の背後に銃を向けるジェフリー…。
その時、部屋の隅の暗闇から黒い影が現れ、彼を何処かへと連れ去っていった。
そして廃屋に二人きり取り残された姉妹に、何者かがさくらんぼを差し出す。。。

5年後、ジェフリーの弟ルーカスとその恋人アナベルが三人の行方を捜していた。
彼らに雇われた捜索隊が偶然、森であの廃屋を発見する。
中へ入るとそこには、野生化し、四足歩行する姉妹が潜んでいた。
そして室内には膨大なさくらんぼの種が積み上げられていた。

保護された姉のヴィクトリアは会話ができたが、妹のリリィは赤ん坊のうちに失踪したため言葉が話せなかった。
医師の観察の元、姉妹はルーカスとアナベルに引き取られ、四人での暮らしをスタートする。
二人はすぐに人間らしい暮らしにも馴染んだ。
しかし、一家の周辺で次々と不気味な出来事が起こってゆく。。。

医師は二人が孤独に耐える為に「ママ」という架空の存在を作り上げ、一緒に暮らしているかのように振舞っていると言う。
ところがママは架空の存在ではなく、1800年代に死んだ女の亡霊だった。
生前、精神を病んだ事から赤ん坊を取り上げられそうになり、崖の上から子供と共に飛び降りた。
しかし途中の木にぶつかり、赤ん坊はその枝に引っ掛かって助かったのだった。
水面へ向かって落下していきながら、手に抱きかかえていたはずの赤ん坊が居ない事を嘆き悲しむ女。
こうして息絶えた女は、それから子供を探して森の中を彷徨っていたのだった。
そして出会ったのがヴィクトリアとリリィの姉妹だった。

二人がアナベルに懐き始めたのを見た「ママ」は、二人を崖の上へと連れ出し。。。

子供、悲しみ、不安、恐怖…これぞデル・トロ印のホラー!といった展開。
泣きながら娘に銃を向ける父親、死んだ父親そっくりのルーカスに「パパ!」と抱きつくシーンなど、前半から泣かせてくれます。

また、最初は子供嫌いだったアナベルが、怪我で入院した彼氏に代わって姉妹の面倒を見る事になります。
母親を題材にしているので、母性に目覚めてゆくアナベルが見所かと思いきや、意外とあっさり流してました(汗)
そこをもう少し掘り下げればもっと余韻を残したと思うんだけど。ちょっと残念な部分。

あと、さくらんぼや蛾といった思わせぶりなアイテムを配置しながら、ただ単に不気味なだけで余り効果的に使われてはいませんでした。
なぜさくらんぼ?なぜ蛾?といった謎解きも行われませんでしたし。

そしてエンディングもすっきりしない終わり方。
「ママ」と一緒に霊界へ行きたがるリリィを生贄に、ルーカス、アナベル、ヴィクトリアが助かります。
三人で助かった事を喜び合っていたけど、幼いリリィは助けてあげるべきだったのでは?
リリィのおかげで最後に人間の姿を取り戻す「ママ」、そして顔をすり寄せて満足げなリリィを見ていると、当人たちにとってはハッピーエンドだったのかもしれない。
でも本人の意志とはいえ、リリィを化け物に渡してしまうラストは納得できませんでした。
「ママ」と一緒に行きたがるリリィをアナベルの母性で引き止める…そんなエンディングが見たかったな。

「ママ」のデザインは、人間というよりクリーチャーと言った方がしっくりくるお姿。
川に沈んで死んだ過去から、常に髪や服が水中をユラユラ漂うように揺れているのが不気味です。
(この演出はギレルモ・デル・トロの「デビルズ・バックボーン」に出てきた少年幽霊を思い出しました。)
ただ「ママ」はフルCGで描かれているのでリアリティは希薄。
いかにもCG、という描写になっています。
CGよりも特殊メイクが好物な自分にとっては物足りませんでしたが、ここは好みの問題ですね。

デル・トロさんのプロデュース作品としてはびっくりどっきり演出が多かったのも「MAMA」の特徴。
いつものジワジワ忍び寄るような恐怖も健在ですが、ひゃ~~~!と叫んだシーンが数回ありました。
不意討ちされた気分(笑)

十分楽しめましたが、もっと面白くできたのでは…という疑問が残ったのが惜しいですねえ。
ギレルモ・デル・トロプロデュース作品の中では、「永遠のこどもたち」「ロスト・アイズ」には及ばず、「ダーク・フェアリー」といい勝負…という感じでしょうか。
でも見る価値は十分あります!

 


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