アメ車マニア


ゼイリブ(原題:THEY LIVE)

1988年アメリカ映画




公開当時、高校生だった自分は、学校帰りに新宿の映画館で鑑賞しました。
青春時代の懐かしい思い出の映画…ではなく、残念ながら苦い記憶として残っていました。

当時、ジョン・カーペンター監督の印象は、マスクを被ったCoolな殺人鬼が出てくる映画や、ド派手な特殊効果で人体を変形させる映画などのイメージが強かった。
そんな作品を期待して劇場に足を運んだ自分は、コミカルで残酷描写も特殊効果も控え目な「ゼイリブ」にひどく落胆し、記憶の奥底に葬り去りました。
ところが、公開から暫く経った頃から「ゼイリブ」を評価する声が耳に入る機会が増え、時間が経つにつれ、記憶の底からムクムクと「ゼイリブ」が再浮上(笑)
そんな時、何となく「ゼイリブ」というキーワードで画像検索をしてみると、興味を誘うパロディ画像が多数出てきました。
現代社会や政治の問題を、「ゼイリブ」のエイリアン画像と組み合わせて作ったコラージュです。
これら画像があまりに衝撃的で、改めて「ゼイリブ」を見直して見る事にしたんです。

ニューヨークに流れ着いた失業中の肉体労働者ネイダは、ビルの建設現場で仕事を得る。
その現場で知り合った黒人労働者のフランクに、失業者が集まって暮らしている公園のキャンプへと案内された。
その公園の隣には不審な教会があり、明け方まで聖歌が聞こえてきていた。
不審に思ったネイダが教会へ忍び込むと、隠し扉の中に保管された大量のサングラスを発見するが、盲目の牧師に見つかり慌てて逃げ出した。
その教会は反体制派の地下組織の拠点となっており、社会をコントロールする悪への反乱を促す海賊放送を発信していた。
録音された聖歌を流し続けるなどカモフラージュを行っていたが、ある日、体制側にバレてしまい、警察が突入する。
しかし、反体制派の活動家たちは寸前で逃亡し、警察が踏み込んだ時にはもぬけの殻だった。
その突入劇のあおりで隣接する公園にも武装警官が押し寄せ、労働者たちのキャンプを破壊してしまう。

警官が去った後の教会に進入したネイダは、1箱だけ残されたサングラス入りのダンボールを拾う。
そのサングラスを掛けて街へ出ると奇妙な事に気付いた。
肉眼ではカラフルに見える看板や広告、そしてテレビ番組の中に、「服従しろ」「考えるな」などの隠された文字が浮かび上がる。
物品の購入、結婚、睡眠、労働など人間が無意識で行っている行動、さらには思想までが、隠されたメッセージで全て指図されていたのだった。
そしてそのサングラスは、人間の姿に化けて社会に紛れ込み、人間をコントロールするエイリアンたちの醜い姿も露わにした。

社会に多数のエイリアンが入り込み、人間がコントロールされている事を知ったネイダは、我が物顔で闊歩するエイリアンに悪態をつく。
するとエイリアンは腕時計型の通信機器で仲間に連絡を取り、そこに警官に化けたエイリアンが駆けつけるが、自慢のラリアット(!)で撃退。
パトカーから銃を取ったネイダは手当たり次第にエイリアンを射殺(やり過ぎ)。

さらに騒ぎが大きくなったネイダは、駐車場で見かけた女性ホリーを脅して車に乗り込み、無事に現場から逃げおおせた。
ホリーの家に転がり込んだネイダがホッとした隙を狙い、ホリーの反撃でバルコニーから崖下へ突き落されてしまう。
しかし持ち前の頑丈な体で大した怪我もしなかったネイダは、再びフラフラと街へ舞い戻る。

街では建設現場で働くフランクに助けを求めるが、指名手配犯となったネイダに関わろうとしない。
だが力づくで掛けさせられたサングラス越しの街を見て行動を共にする事になる。
街でお揃いのサングラスを掛けた二人を反体制派のメンバーが見掛け、彼らをグループの集会へと招いた。
集会の会場にはホリーもおり、崖から突き落した事を謝罪し和解した。
こうして反体制派のメンバーとなったネイダとフランクだったが、会場に警官隊が突入し、他のメンバーの大半が殺されてしまう。
追い詰められた二人は、エイリアンの腕時計を使ってエイリアンの地下施設へと逃げ込む。
施設はエイリアンの活動拠点であるテレビ局へ繋がっており、屋上の巨大なアンテナから世界中のエイリアンへ信号を発信していた。
ネイダたちはこのテレビ局で働くホリーを探し出し、屋上へ案内させてアンテナを破壊しようと考えるが。。。


実はこの世界は全てエイリアンにコントロールされており、自分の行動も全て仕組まれた物だった、というお話。
前述のとおり、「ハロウィン」の迫りくる恐怖も、「遊星からの物体X」の視覚的驚きや犯人捜しのサスペンスもありませんが、「ゼイリブ」は人間界に深く入り込んでしまったエイリアンが作り上げた社会の恐怖と絶望を、皮肉たっぷりなブラックユーモアと共に描いています。
改めて見ると、この設定は非常に面白い。
行動や思考が自分の意志ではないというのは、考えれば考えるほどゾッとします。
ジム・キャリーの「トゥルーマン・ショー」も自分の世界が作られた偽物だったというのが衝撃的でしたが、それと通じるものを感じました。
テレビ番組も、広告も、雑誌も、全て人間を支配するためにサブリミナル効果を仕込んでいるという発想は、フィクションとは言い切れないリアリティを感じてしまいます。
実は合衆国大統領がエイリアンだったという場面で、主人公が妙に納得する場面は思わず笑っちゃいます。

このように社会を鋭く風刺してみせたかと思えば、演出は非現実的…悪く言ってしまうと稚拙な感じがしちゃいます。
まず主人公が強すぎ。
大勢の警官隊を相手に撃ち合っても弾が当たらない、片手持ちでライフル乱射しても命中率高過ぎ、崖から転げ落ちても怪我をしない、etc.
ネイダを演じるのはプロレスラーのロディ・パイパーなので、人並み外れた身体能力を持っているからなのかもしれません。。。と自分を無理矢理納得させてみたり。
あと、主人公に人間味が感じられなくて、感情移入しずらいのもマイナスポイント。
泊まる場所が無くて途方に暮れている所に、フランクが親切に宿を紹介しようとしているのに完全ノーリアクションのガン無視。
なのに、フランクの後をトボトボ着いてきて、ちゃっかり世話になるという天邪鬼っぷり。
寡黙でCoolなのと、人の好意を無視で返すというのは別だと思いますよ。
まあ、SFホラーでありながらブラックコメディ色が強い作品なので、あまり細かいところを突っつくのは間違った楽しみ方なのかもしれませんね。

ちなみに、ネイダの相棒フランクを演じているのは、「遊星からの物体X」チャイルズ役のキース・デイビッド。
現在も渋い脇役として色々な映画に出演されていますね。
またホリー役のメグ・フォスターは、個人的に「ゼイリブ」と「リバイアサン」でしか見た事がありませんが、薄いブルーの瞳がとても印象的。
見ていると吸い込まれそうになります。

特殊効果のスタッフとしてロイ・アーボガスト、ジム・ダンフォースといったクレジットがありますが、彼らの仕事は控え目です。
リメイクばかりのハリウッド映画にはウンザリしていますが、「ゼイリブ」は設定を活かしつつ、今の技術で撮り直したらもっと面白くできる気がします。
カーペンターの思いを受け継いで、誰か今風にリメイクしてくれないかな~。


 


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